ブラック企業に入社してしまった人は、すぐにでも退職をしたいものです。しかし、ずばり申し上げると、ブラック企業は通常の会社に比べても引き止めにあう可能性が高く、一筋縄ではいかないことも多いです。
ブラック企業をできるだけ早く・問題を回避しながら退職していくためには、事前の準備がとても大事になります。こちらの記事では、ブラック企業を辞める場合に知っておくべきことや退職手順、注意点などを解説します。ぜひ、少しでも早くブラック企業から脱出するための参考にしてみてください。
ブラック企業を辞めたい人が知っておくべきこと
ブラック企業に対して退職の意思を伝えようとすると、「人が足りていないから辞められない」「社内ルールで半年前に退職を伝えないといけない」などと、さも当たり前かのように退職を拒否されるようなこともあります。
しかし、それらは従業員の無知につけこんだ言い分であって、法的に見れば何の効力もありません。まずはブラック企業を辞めたい方が、退職について法的にどのような決まりがあるのかを知っておきましょう。
法律的には2週間前に伝えれば退職可能
ブラック企業では「後任を見つけるまで退職できない」「半年前に退職を伝える」などの独自の社内規則が作られているケースがあります。しかし、法律的には原則的に2週間前に退職の意思を伝えれば一方的に退職できるようになります。
第六百二十七条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
ただ、2週間前だと人員配置や引き継ぎが間に合わない可能性が高いため、実際には社内規則で「1ヶ月前までに退職を伝える」と決めている会社が多いでしょう。基本的には決められた社内規則に沿って退職していくことが一番スムーズです。
しかし、ブラック企業の場合は、社内規則や引き止めなどの理由で無茶な要求をされるケースもあるので、最終的には法律に沿えば2週間で退職できるということを知っておきましょう。
退職の拒否や強引な引き止めはできない
職業の自由は日本国憲法で保護されており、勤務先が退職を拒否して職業を制限させることはできません。
第二十二条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
退職を拒否されたり、強引に引き止められ続けたりすることがある場合には、労働基準監督署や労働局に相談することも検討しましょう。また、暴力や脅しを受けるようなケースでは、警察も相談先の候補に挙げられます。
外部機関に相談・報告しに行く際には、客観的に事実が分かる証拠があると良いので、やり取りをボイスレコーダーに残したり、メール内容を保存しておくことをおすすめします。
サービス残業代や未払い賃金は請求できる
ブラック企業では、残業代などの賃金が正しく支払われていないケースがあります。また、退職すると伝えた後に嫌がらせなどで支払われないようなこともあります。このような賃金未払いに対しては、退職後でも会社に対して請求を行うことが可能です。
残業代請求等の未払い賃金請求の時効は3年となっており、3年前の分まで遡って請求が可能です。ブラック企業となると長時間労働が通常ですので、3年間の未払い賃金だけで数百万円になることも普通に起こり得ます。
ぜひ、泣き寝入りすることなく、働いた分の賃金は、しっかり請求して次の転職先に進んでいけるようにしましょう。ご自身だけで請求することも不可能ではありませんが、ブラック企業であればなおさら請求に応じてくれる可能性が低いため、弁護士を通して請求することを強くおすすめします。
実際の未払金の額や集めておいた方が良い証拠などをアドバイスしてくれますので、まずは相談してみることをおすすめします。
有給休暇が残っていれば消化できる
たとえブラック企業でも、法律上は6ヶ月以上勤務した従業員に対して有給休暇を付与しなくてはなりません。
(年次有給休暇)第三十九条
使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。
これから退職を考えている方であれば、残った有給日数分を消化し、退職日前の数週間は出社せずに辞めていく方法が一般的です。有給休暇の消化については、退職日を決める際に合わせて消化スケジュールも決めていきます。
ブラック企業の場合、有休消化を拒否されることもありますが、その場合には労働基準監督署に報告をしにいきましょう。また、後述する退職代行にお願いすれば、有休消化と併せて退職日を決めてくれますので、自分だけで伝えても拒否されそうな場合には外部のサービスや相談機関も頼っていってください。
退職後に嫌がらせを受けた場合の相談先
これらの法律違反によって退職を阻止してくるブラック企業が多いのですが、中には直接嫌がらせをして退職させないようにしてくるブラック企業もあります。 ブラック企業の退職時の嫌がらせとして次のような内容があります。
- 無視をする・暴言を吐く・暴力を振るう
- 離職票を渡さない←失業手当の手続きができなくなります
- 「損害賠償請求する」と脅してくる←法的根拠がないことがほとんどです
このような嫌がらせを受けた場合には、必ず外部機関に相談・報告するようにしましょう。一人で悩んでいてもなかなか解決策は見つかりませんし、辛い思いが続いてしまうだけです。
主な相談先と相談できることをまとめると次の通りになります。
相談先 | 特徴 |
---|---|
労働基準監督署 | 未払い賃金や長時間労働などの労働基準法違反に該当する相談・報告は、労働基準監督署に可能。ただし、職場改善のために職場に対して注意・指導することが主な対処法になり、これから退職する人にはあまり向いていないことがある。相談窓口に労働トラブルに関する窓口もあるため、アドバイスを聞きにいくだけでも有効。 |
ハローワーク | 離職票を出さない時の相談先。会社に対して離職票を出すように催促してもらえる。今後の失業手当受給の窓口にもなるため、一度相談に行っても良い。 |
弁護士 | 未払い賃金や不当解雇などの対応も依頼することが可能。また、会社側の言い分に法的根拠があるかどうかも判断してもらえるため、相談先として頼もしい。状況を説明できる証拠があると良い。 |
警察 | 民事問題は取り合ってくれない可能性が高いので、犯罪行為があったと分かる証拠があると良い。悪質な暴力・暴言・脅迫などは対応してもらえる可能性がある。 |
他にも、労働トラブルに関する相談先は数多くありますので、ぜひ参考にしてみてください。
ブラック企業のスムーズな退職方法
たとえブラック企業でも、前もって準備を進めていけばスムーズに退職日を迎えられることもあります。ブラック企業を辞めようとしている方は、まずは次の手順で退職していく計画を立ててみてください。
会社の就業規則を確認する
上記で「原則的に2週間前に退職を伝えれば退職可能」とお伝えしましたが、それだけでは期間が短いので、会社独自で退職に関するルールを決めている会社が多くあります。
多くの会社では「退職の1ヶ月前に上司に知らせる」などと決められていますが、職種によってはもう少し期間が長い場合もあるでしょう。基本的には就業規則に沿って退職を進めていけばスムーズに退職できるはずです。
ただし、ブラック企業の場合、そもそも就業規則がなかったり、「退職の意思は1年前に通知する」「後任が決まるまで退職できない」などの独自のルールが設けられている場合があります。そのような理由で退職日を決められない方は、労働基準監督署や弁護士に相談されてください。
明確な退職理由を用意しておく
退職願等に書く退職理由では、事務的に「一身上の都合」で問題ありませんが、ブラック企業の場合、必ずと言っていいほど退職理由の詳細が聞かれることになるでしょう。
退職理由が曖昧なままだと、会社側から引き止めにあう可能性が高くなります。建前上でも良いので相手が納得するような退職理由を事前に用意しておくべきでしょう。
退職理由の例
- 家族の面倒を見る必要があるので転職します
- 体調を悪くしてしまったので退職させてください
- やりたい仕事が見つかったので、新しいチャレンジをするため転職します
時には嘘も方便で、断れない理由を用意しておくと良いでしょう。特に家庭の事情や体調不良は、それ以上深く突っ込みにくい事情でもあるのでおすすめです。
それでも拒否されるような場合には、繰り返しますが、労働基準監督署などの相談先に報告・相談してください。
退職意思を上司にハッキリと伝える
ブラック企業相手だと、退職するときっぱり伝えることでどのような目にあうのかわからないため、なかなかハッキリ言い出しにくいものです。退職理由と同じで、退職の意思が曖昧だと、引き止めにあってしまう可能性を高めてしまいます。
引き止められても断固拒否して、退職日を曖昧にされるようであれば、○月までには退職できますか?など、退職日が決まるまでしぶとく追求していきましょう。
中には暴力や脅迫に近い行為で恐怖を感じさせて辞めさせないようにするブラック企業がありますが、被害を受けたならすぐに外部機関に報告・相談です。
引継ぎなどは可能な限り協力する
いくらブラック企業だったとしても、可能な限り引き継ぎなどに協力した方が、スムーズで円満に辞められることもあります。後任の採用などは会社側の仕事ですが、後任に対して細かな業務内容を伝えたり指導したりすることは、退職する人が一番詳しいです。
業務内容にもよりますが、1〜2週間もあれば引き継ぎは完了できるでしょうから、引き継ぎ期間も考えて退職日を決めると良いでしょう。ただし、これはあくまでも可能な限りです。
会社が退職を拒否していたり、パワハラを受けていたりする場合には、悠長に引き継ぎをしている余裕がないことがほとんどです。そのような方は、後述するような即日退職も可能になり得る退職代行も検討しましょう。
退職日を話し合いで明確にする
ブラック企業の多くが人員不足で「辞めても良いけど新しい人が入ってからにしてくれ」などと退職日を曖昧にされるケースがあります。
退職日を曖昧にしていると、「他にも辞める人が出てきた」「採用がうまくいかない」などと後から理由を付けられて退職ができない状態にもなってしまいます。退職を認めてもらえたなら、必ずセットで退職日も確定させておきましょう。
一般的な企業では、退職を伝えた日の翌月末(約1ヶ月後)を退職日に設定することが多いです。ブラック企業の場合、慢性的に人手不足であるため、2〜3ヶ月後などの期間を設けられるかもしれません。
それでも退職が確実になるのであれば、背に腹は変えられない場合もあるでしょう。話し合いでお互いに納得できる退職日をすり合わせて決めていってください。
ブラック企業を辞められない時の対処法
このような一般的にはスムーズで正しい退職方法をとっても、強い引き止めにあったり、嫌がらせや暴言を受けたりするのがブラック企業です…。どうしてもブラック企業が辞められない場合には、次の方法も検討してみてください。
内容証明を送付する
内容証明郵便とは、郵便局が送った郵便物の内容と日付、受取人などを証明してくれるサービスです。内容証明郵便で『退職届』を郵送することで、一方的に退職の意思を伝え、その内容が証拠として残ります。
最初にもお伝えしたように、退職の意思を伝えれば契約を解除することができ、会社側がそれを拒むことは法律違反になります。内容証明郵便があることで、退職する意思を示した証拠として残すことができるようになるのです。
ただ、いきなり退職届が内容証明で届いたことによって、会社側も感情的になり、電話が何回もかかってきたり、損害賠償請求の問題になる可能性も否めませんので、最終手段の1つとしてお考えください。
また、内容証明郵便を送ったからといって、会社側が素直に応じてくれるとは限りません。同時に弁護士や労働基準監督署にもすぐに相談にいける体制を整えておくようにしましょう。
退職代行を利用する
近年話題になっているサービスで『退職代行』というものがあります。弁護士や業者が代わりに退職を伝え、本人は会社とやり取りをせずに退職日を迎えることができるサービスです。
ブラック企業でも、強引な引き止めや退職の拒否は違法だと認識しているため、第三者から退職を伝えられたら素直に応じるケースも少なくありません。
ブラック企業でお勤めの方が退職代行を利用する場合には、未払い残業代請求などの他の法律違反の対応も可能な弁護士による退職代行に依頼すると安心でしょう。
まとめ
ブラック企業を退職する場合、どのような仕打ちにあうか分からず、引き止めにあう可能性も高いため、特に思い悩む人も多いと思われます。まず、退職を拒否したり、強引な引き止めをしたりすることは違法の可能性が高いです。
退職が認められないようなことがあれば、労働基準監督署などの外部機関に相談するようにしましょう。いくらブラック企業でも、退職の拒否は違法だと知っているケースも多いので、前もって退職を伝えていけば認めてもらえるケースも少なくありません。
一般的には1ヶ月以上前ですが、極力会社の規則に沿って退職を伝え、引き継ぎ等にも協力しながら退職日を迎えていけば、案外すんなりと退職できる場合もあります。ブラック企業に退職すると伝える勇気が出なかった方にとって、少しでも前に進める内容になれたなら幸いです。