ブラック企業とは、長時間労働や低賃金、賃金の未払い、日常的なハラスメント、厳しいノルマなど、働く人にとって厳しい環境になっている企業のことを言います。
ブラック企業そのものに明確な定義はありませんが、労働基準法をはじめとした労働関連の法律が守られていない会社や、多くの従業員が辞めたいと思える環境になっていて離職率が高い会社をブラック企業と言うことができるでしょう。
こちらの記事では、ブラック企業の特徴やよくある傾向、ブラック企業に入社してしまった場合の対処法について解説します。これから就職活動をする方は、ブラック企業に入社してしまわないように事前知識を身につけておきましょう。
ブラック企業に明確な定義はない
「ブラック企業」とは俗称で、明確な定義がされているものではありません。ただし、厚生労働省は、以下の3つをブラック企業の特徴としています。
- 長時間労働や過剰なノルマなどによって過酷な労働環境になっている
- 給料未払いやハラスメントなどのコンプライアンス違反が横行・放置されている
- 過度な選別・差別が行われている
厚生労働省においては、「ブラック企業」について定義していませんが、一般的な特徴として、① 労働者に対し極端な長時間労働やノルマを課す、② 賃金不払残業やパワーハラスメントが横行するなど企業全体のコンプライアンス意識が低い、③ このような状況下で労働者に対し過度の選別を行う、などと言われています。
また、日本の労働運動家・社会学者である「今野晴貴さん」の定義によると、「若者を大量に採用し、過酷な労働を強いて離職に追い込む会社」ともされています。
「新興産業において若者を大量に採用し、過重労働・違法労働・パワーハラスメントによって使いつぶし、次々と離職に追い込む成長大企業」(今野晴貴による定義)
世間一般的には、ブラック企業とは「安い給料で長時間労働の会社」というイメージが強いでしょう。ブラック企業が生まれてしまう原因は、「経営陣の法令順守(コンプライアンス)の意識が低い」「サービスや事業の特性上、長時間労働になりやすい」などが挙げられます。
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厚生労働省が定めたブラック企業の3つの特徴
上記でもお伝えしたように、ブラック企業には次の3つの特徴が挙げられます。
- 長時間労働や過剰なノルマなどによって過酷な労働環境になっている
- 給料未払いやハラスメントなどのコンプライアンス違反が横行・放置されている
- 過度な選別・差別が行われている
これらに該当する会社はブラック企業だと判断することができます。具体的にどのようなケースでブラック企業の可能性が高いのかをご説明します。
長時間労働やノルマを課す
長時間労働や厳しいノルマは、ブラック企業の代表的な特徴です。過度な長時間労働は労働者の心身に悪影響を及ぼします。
厳しいノルマがあれば、ノルマ達成のために必然的に労働時間が長引いたり、プレッシャーや未達時の叱責などで強いストレスを感じたりして、心身ともに負担を増やします。
長時間労働の目安としては、厚生労働省が設けている時間外労働の上限規制である「45時間以上の残業が半年以上ある」「100時間以上の残業がある」を参考にしましょう。これらに当てはまる場合は、長時間労働になっている会社だと考えてください。
給料未払いやハラスメントが横行している
日本では、労働基準法などによって、労働者を守るための法律が整えられています。しかし、ブラック企業では、これらの法令を無視して違法に労働者に働かせている会社も多くあります。
代表的なものは賃金未払いで、特に残業代未払いはブラック企業によくある問題です。上記の長時間労働が続く会社であれば、人件費が必然的に高騰しますので、人件費を抑えるために違法に残業代を払わないようにしているブラック企業も多くあります。
また、行き過ぎたハラスメント行為は犯罪行為にもなり、それを放置しているということは、会社全体で犯罪行為を黙認しているとも言えます。
労働者に対し過度な選別を行う
普通の会社も成果に応じての昇格や昇給などの差が出ることはあります。しかし、仕事ができないことなどを理由に著しく差別を受けたり、嫌がらせ等を受けたりするようであれば、ブラック企業の可能性が高いです。
上記のハラスメントと合わせて差別的扱いや嫌がらせ、無視などが行われる会社もあります。 また、仕事ができないこと以外にも、有給や育休を取ろうとした社員に対して嫌がらせをするなど行為も挙げられます。
会社がブラック企業だと感じている人の割合
自分の会社が「ブラック企業かも…」と思っている方は、自分が過敏になり過ぎているだけなのか、やっぱりブラック企業と呼べる環境と言えるのか気になるところですね。
では、何割の人が自分が働く会社のことをブラック企業だと思っているのでしょうか? 「自社がブラック企業だと思うか?」と聞いたアンケートが2つありましたのでご紹介します。
アンケート結果によると、3〜4人に1人の割合(30%前後)の方が、自分の会社をブラック企業だと思いながら働いているようです。著者個人的には、けっこう多い割合だなと感じました。
ブラック企業で働いている人が多いからといって、見過ごして良い理由にはなりません。ご自身の会社がブラック企業に当てはまるようであれば、然るべき機関に相談や報告をするようにしていきましょう。
ブラック企業が多い業界の特徴
業界や職種によって、仕事内容や会社の利益率、求職者からの人気などが違ってきます。その結果、どうしてもブラック企業が多く発生しやすい業界が出てきてしまいます。
ただし、必ずしもその業界の会社がブラック企業とは限りません。その業界で働きたいと考えている方は、簡単に諦めずに、慎重に調べながら就職活動を進めるようにしましょう。
人材が不足している業界
人材不足になっている業界では、ブラック企業が多くなる傾向にあります。鶏が先か、卵が先かという問題でもありますが、人が足りていないと、それだけ1人あたりの仕事量が増え労働環境が悪化します。
その結果、離職率が高くなり、人材不足が慢性的に続くようになるのです。 一般的に人手不足が多い業界として、次の業界や職種が挙げられます。
人材が不足している業界の例
- 建設業
- 介護事業
- 小売業
- 飲食業
長時間労働になりやすい業界
何度かお伝えしているように、長時間労働はブラック企業の代表的な例です。仕事柄長時間労働になりやすい職種や業界では、多くのブラック企業が生まれている可能性が考えられます。
長時間労働になりやすい業界・仕事としては、労働集約型の仕事が挙げられます。労働集約型産業とは、機械やテクノロジーに頼らず、実際に人が働くことによって業務が成り立つ仕事が多い産業を指します。
代表的な例として、次の業界が挙げられます。
長時間労働になりやすい業界の例
- 飲食業
- 宿泊業
- 小売業
- 運送業
成果主義な業界
仕事柄、どうしても成果を求められる職種・業界があります。代表的なのは営業職です。営業の仕事は、成果を出せる人であれば、歩合等の収入も入り、高年収も期待できる仕事です。
しかし、営業で成果を出せない・向いていないにとっては、厳しいノルマに対する未達が続き、精神的にも追い込まれ、上司から厳しく叱責されたり、嫌がらせを受けたりするようなこともあります。
成果主義な業界の例
- 営業職
- 金融業
- 保険業
- 不動産業
ブラック企業に入社してしまったら
自分の会社がブラック企業だと分かった場合、そのままにしていても状況が改善される可能性は極めて低いです。まずは適切な機関に相談し、自分からアクションを起こしていくことを強くおすすめします。
相談に行く際は、具体的な証拠と内容を持って相談をしに行くようにしましょう。そうすることで、相談相手にも本気度が伝わり、より迅速に対応してもらえる可能性が上がります。
例えば、パワハラを受けているのであれば、パワハラを受けたときのボイスレコーダー記録やメール内容、長時間労働ならタイムカードや労働時間をメモした内容などです。それぞれの問題に応じた相談先は次のとおりとなります。
相談先 | 相談内容 |
---|---|
労働基準監督署 | 長時間労働や未払い賃金などの労働基準法違反に該当する内容 |
労働局 | ハラスメントや不当な配置転換などの労働基準法違反とまでは言えない内容 |
弁護士 | 未払金請求など、会社に金銭請求したい場合 |
違法な長時間労働は労働基準監督署
労働基準監督署は、労働基準法違反に該当する会社に対して調査・指導を行うことができます。労働者から相談を受ければ、事実確認のために調査・指導を行い、その結果職場の労働環境が改善されることが期待できます。
よく「労働基準監督署は対応が遅い」などと言われることがありますが、これは労働基準監督署も数ある相談のうち優先度が高いものから対応しているからです。
対応が遅れる原因には、上でお伝えしたように相談先に本気度が伝わっていないことがあると言えます。しっかり証拠や状況をまとめて相談しに行くことをおすすめします。
また、未払い賃金は労基署にも相談しに行けますが、直接取り返すことは難しいため、今までの未払金を会社に請求したい場合には、弁護士への相談がおすすめです。
ハラスメント問題は労働局
労働局では、労働基準法違反とは言えない内容でも相談することが可能で、ハラスメントや不当な配置転換、減給、解雇などの相談ができます。
労働局でも、相談内容の事実確認が行われ、必要に応じて助言や指導をすることができますので、客観的にハラスメント等があったと分かるような準備をして相談に行くようにしましょう。
また、助言や指導だけで解決しない場合には、裁判外紛争解決の1つである、あっせんをおこなうアドバイスもしてくれます。
給料や残業代未払いは弁護士
給料や残業代などが正しく支払われていないブラック企業に対して、未払金を請求したい場合には、弁護士に相談することが一番です。弁護士に依頼すれば、自分の代わりに未払金を会社に対して直接請求してくれます。
また、未払い賃金がどれくらいあるかも教えてくれる場合もありますので、雇用契約書や就業規則、実労働時間が分かる資料などを持って相談に行くことで、より有意義な回答をもらえることが期待できます。
ブラック企業についてよくある質問
最後に、ブラック企業に関してよくある質問にお答えします。
大企業はブラックばかりなの?
会社の不祥事や労働基準法違反などについて、大企業の方が目立っている印象がある方もいるかもしれません。しかし、大企業はブラック企業が少ない傾向があります。
理由としては、大企業は株主や顧客、求人などへの影響も大きいため、イメージを何よりも重要視しており、社内でのコンプライアンスにも非常に気を使っているからです。
それでもなぜ大企業でのハラスメントや事故、過労死などが目に付くのかというと、大企業での不祥事の方が話題性もあり、ニュースとして表面上に出てくるからです。実際にブラック企業として多いのは、無名な中小企業が圧倒的に多いと言えるでしょう。
もちろん中小企業でも良い会社はたくさんありますが、会社の経営に左右されやすかったり、労務や福利厚生が整っていなかったりすることが多い中小企業やベンチャー企業では、ブラック企業に当たる確率も上がってくるとお考えください。
なぜ日本はブラック企業が多いの?
「KAROUSHI (過労死)」という言葉が世界共通語になっているように、日本は「ブラック企業が多い」「働きすぎ」というイメージを持っている人も多いことでしょう。これは日本独自の次の働き方が原因にあると考えられます。
1つは、一度会社に入社したら定年まで転職せずに働く「終身雇用の風潮」が未だ根付いている企業が近年まで多くあったからです。会社としても、簡単に従業員が辞めないため、多少過酷な労働環境にしても、従業員が働き続けてくれていました。
一方、欧米の文化では、良い条件の求人や会社からオファーがあれば、積極的に転職していくため、従業員を引き止めるために労働条件を良くする必要があったのでしょう。
また、日本の解雇に関する法律が厳しく、簡単に従業員を解雇できないため、年収が高い中高年を雇い続けることとなり、そのしわ寄せが若い社員に及んでしまっていることも原因の1つにあると考えられます。
もう1つは、高度経済成長を支えた「企業戦士」「モーレツ戦士」のイメージが未だ残っているものだと考えられます。
自らの身も家庭や家族をも顧みず会社や上司の命令のままに働く姿を戦場での兵隊に例えたものである。戦後の日本の経済成長を支える存在であると企業や社会から重宝され、高度経済成長以降「日本株式会社」の主な担い手となった。
「この働き方が会社成長のために必要だ」と、考えていた当時の企業戦士世代(現在の60〜70代あたりの人たち)が経営陣になり、ブラック企業を作っていったことが原因の1つに挙げられます。
ブラックな職場は人間関係が悪い?
ブラック企業の人間関係のイメージを、常にピリピリしていて罵声が飛び交っているとイメージしている方もいるかもしれませんが、雰囲気そのものは悪くないブラック企業もたくさんあります。
「アットホームな職場」をウリにしているように、実際にフランクな感じで社員同士が接しあっているブラック企業も少なくありません。ただし、職場内の人間関係が良いからといってブラック企業ではないと判断することは間違いです。
そのようなコミュニケーションを取っている会社は、従業員を怒る際にもアットホームな(家族のような)態度を取ることも多いですし、必要以上にプライベートに干渉することも少なくありません。
まとめ
現在ブラック企業で働いている場合は、そのまま働き続けても状況が改善される望みは薄く、心身共に疲弊していきます。
ご自身の会社が「ブラック企業かも…」と思う部分があった場合には、ブラック企業と言えるだけの証拠や状況をまとめて、然るべき相談先に相談しに行ってみることをおすすめします。
相談先は上記の内容を参考にしながら、ぜひ1歩目のアクションを取ってみてください。